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知的ギフテッドの行方

「倫太郎君は、ワンテンポ遅れるんですよね。」

 

倫太郎が小学校1年生になって、最初の保護者懇談で担任の先生から言われた言葉である。

 

「『教科書の〇〇ページを開いて』と言うと、他の子たちは教科書を開いていますが、倫太郎君は教科書を探しているという具合です。かと言って勉強についていけないわけではありません。聞いていないのかと思えば、むしろよく理解していると感じることもあります。」

と、先生も腑に落ちない様子だった。

それから、「ワンテンポ遅れます」という担任の先生の言葉を、中学生になるまで聞くことになった。

 

そのことについて、倫太郎は次のように言っている。

「僕は他の人たちの言動について『何であんなことを言ったのだろう。どうしてあんな行動をとったのだろう』と、いろいろな場面について疑問に思ったことを、授業中に思い出して考えるのが楽しかった。授業は簡単ですぐ分かるのに、先生が何度も説明するから退屈になって、そんなことを考えて過ごすようになった」

そうだったのか・・・

 

小学生低学年の倫太郎の成績は普通だった。

倫太郎曰く、「設問によってはいろいろな意味に取れるものがあり、回答の選択肢が多くて何を答えればいいか迷うことがあった。設問を深読みしてしまい失点したこともあった。だから学校の勉強が嫌いだった」。

言語推理能力の高さが単純な回答を避ける結果となり、成績に影響したとするとやるせない気持ちになる。。

 

 

 

 

 

 

知的ギフテッドの行方

私が小学生の頃受けた知能検査は集団で行われており、ビネー式知能検査だったと記憶する。今般の知能検査でよく使用されているのは、ウエクスラー式知能検査である。ウエクスラー式知能検査は対象年齢によって、WPPSI(幼児用)、WISC(児童用)、WAIS(成人用)の3種類がある。

 

倫太郎が受検したのはWISC‐Ⅳ(平成23年発刊)で、対象年齢は5歳0か月から16歳11か月となっている。受検当時の倫太郎は、高校2年生で16歳10か月だった。3学期に入って不登校になっていた為、「時間があるのだから試しに能力の偏りがないか受けてみたら?」と提案した結果、しぶしぶ受検することを承諾した。そもそも興味のない事(学校の勉強等)をすること自体億劫なのだから、受検態度もよいとは言えない。近くで見ていると、時間の経過とともに集中力が低下し、倫太郎が無意味だと思う課題(数唱)では早々に切り上げてしまっていた。

 

この検査では、全検査IQ(FSIQ)と4つの指票得点が算出されるようになっている。4つの指票得点には『言語理解指標』『知覚推理指標』『ワーキングメモリー指標』『処理速度指標』がある。『言語理解』は、言葉の概念を捉え、言葉使って推論する能力、『知覚推理』は、非言語的な情報を基に推論し、新奇な情報に基づく課題処理能力、『ワーキングメモリー』は、聞いた情報を一時的に記憶に留め、その情報を操作する能力、『処理速度』は、単純な視覚情報を素早く正確に順序よく処理あるいは識別する能力、をそれぞれ測定する。

 

倫太郎の各指標の得点は、言語理解150、知覚推理139、ワーキングメモリー97、処理速度102であった。言語理解は同年齢集団内において『非常に高い』、知覚推理は『高い~非常に高い』、ワーキングメモリーは『平均』、処理速度は『平均~平均の上』ということになる。問題は、一般的能力指標(GAI)を示す言語理解・知覚推理と、認知熟達度指標(CPI)を示すワーキングメモリー・処理速度との得点の差が大きい点だ。

全米ギフテッド協会では、ギフテッド判定には、全検査IQ(FSIQ)よりも推理力を重視し、速度要因の影響を受けにくいGAIの使用を求めているという。倫太郎のGAIは149ということになる。

 

しかし倫太郎にとって、これが多くの苦悩を呼ぶ原因であった。

 

 

* 参考文献;上野和彦、松田修、小林玄、木下智子著/WISC‐Ⅳによる発達障害野アセスメント

Wechsler/日本版WISC‐Ⅳ刊行委員会編/日本版WISC知能検査補助マニュアル

 

知的ギフテッドの行方

本格的な受験シーズンが到来した。

 

志望校合格を目指す受験生とその保護者にとっては、長く苦しい季節だ。

 

模試の成績に一喜一憂しながら、「あーあ、天才だったらいいのにな」多くの人がそう思ったことがあるのではないだろうか。私は何度もそう思った。

 

IQ132

 

息子、倫太郎(仮名)のIQ(知能指数)だ。これはWISC‐Ⅳという知能検査の結果である。WISC‐Ⅳでは全検査IQ(FSIQ)と言う。平均が100。1標準偏差が15。倫太郎は2標準偏差以上あり、同年齢集団の2.2%ほどの人しか該当しないという高い水準の能力を有していたのだ。いわゆる‟天才”または‟知的ギフテッド”という。

 

こんな身近に‟天才”と言われる人がいたとは、本当に驚きであった。同時にそのことに気づかなかった母親として酷く後悔している。目前のことに囚われ、倫太郎の可能性の芽をいくつも摘んでしまっていたであろうことを・・・

 

しかし倫太郎は、幼少の頃から特に秀でているところは見られなかった。それどころか、小学生の頃の成績は決して思わしいものではなく、勉強への意欲も低かった。

 

高校の卒業式の日、倫太郎は「高校を卒業するまでの12年間は地獄のようだった。長い長いトンネルをやっと抜け出せた」と言った。

 

‟天才”とは、必ずしも羨ましがられるような能力ではないのかもしれない。

 

今、倫太郎は「僕のような辛さを理解してもらいたいから、ブログに書いて欲しい」と言う。

 

現在大学に進み、少し心のゆとりが出来た倫太郎は、これまでに体験し感じたことについて話してくれるようになった。その倫太郎がここまでどのように歩んできたか振り返ることで、‟知的ギフテッド”にとってどのような困難があったのか、その1ケースとして皆さんに関心を持ってもらえたらと思う。

 

そしてこれからどのように歩んでいくのか・・・

 

※知的ギフテッドとは、FSIQ;130以上の知的発達水準の極めて高い子 どもを表す教育用語である。

 

*参考文献;上野和彦他著/WISC‐Ⅳによる発達障害のアセスメント